弁護士も構造不況
以前は、医者か弁護士になると高収入が得られると言われていたけれども、今やどちらも資格を取るのは難しいけれど、必ずしも高収入が得られる職種ではなくなっている。(医者については別の機会について書こうと思う)。
前々から、法科大学院ができてから弁護士が就職難になっている事は知っていたが、『日弁連「ペースダウンを」弁護士の増員計画で方針転換』(日経ネット)では、2010年までに毎年3000人の合格者を出す方針があり、その傾向がますます強くなっているようだ。そもそも、その日弁連が2000年11月の臨時総会で、法曹人口の増加を求める決議を採択しているのだが。
『弁護士「急増」で就職先確保が困難?何を今更・・・』(黒猫のつぶやき)や「弁護士は就職氷河期」(田舎弁護士の訟廷日誌)では弁護士の少ない地方での就職・開業すら困難な事等を通じて、弁護士業界の2007年問題から始まった、この事を取り上げている。
元々、弁護士の需要が増えていた訳でもない所に、その数を増やしていけば、余ってしまうのは自明の理だ。需要が増えていない規制業種で働く人を増やして、働く人の雇用状況を悪化させる点ではタクシー業界と同じと言える。
日弁連の「会員数の推移」によると、2008年3月現在の登録者数で、弁護士は2万5062名いる。同じくグラフを見ると弁護士数は一貫して増えていて、ここ数年は特に増加ペースが大きくなっている。毎年3000名が増えると、年間15%増のペースで、10年後には倍の5万人なってしまう。
日本は既に人口減少に転じつつあるから、10年後には人口比で言うと弁護士数は倍以上に増えている計算になる。
さらに、業務分野が拡がって弁護士と業務分野が一部重なる様になった司法書士は1万9137名(日本司法書士会連合会の概要、2008年1月現在)、行政書士が3万9786名いる(日本行政書士会連合会の概要、2008年5月現在)。
弁護士数が増えても仕事が増えなければ、仕事をとるために時間単価を下げる様になるが、こうした司法書士と行政書士との価格競争が起こってしまうから、状況は厳しい。
会社の経営に関わっていると、業務委託・受託や販売契約等、何かしら契約書等の作成に関わりもするから法的な確認をとりたい事だって出てくる。
ところが、士業はITの普及によって経験を積んだプロフェッショナルだけが通用する厳しい仕事になっている。
弁護士も税理士もプロフェッショナルな助言をしてもらえるなら大切な存在だけれども、定型的な作業なら、いまや契約書の文例集といったデータを1時間程度のフィーで買えば、好きなだけ利用できるから、仕事を依頼する必要は感じられない。
同じ士業である税理士も同じで、経理の仕訳例や損金処理できる範囲等が大きな本屋に行けば並んでいる税務関係のハンドブックや日本税理士連合会が毎年発表している「中小企業の会計に関する指針」で説明されている。これらをみれば、判断できる範囲なら自社内で処理できる。こうした物で判断しきれない部分のアドバイスをしてくれない限り、仕事を依頼する必要を感じない。
弁護士を増やすという政府の方針があるので、以前に比べて弁護士資格を取り易くなった。しかし、その後働いていく中で専門性と経験を身につけられる場が無い限り、弁護士として活躍できる場面がやってくる事は無い。
法律事務所ですら供給を必要としていないのに、企業の法務部門で働くなど、経験の無い新卒弁護士が働ける場が無いのだから、専門性と経験を身につける少ない機会は新卒同士の奪い合いになる。
多様な人材を法曹界に招き入れる期待していた法科大学院で、社会人入学者が4年連続で減少している「法科大学院、社会人入学者3割切る・08年度」(日経ネット)。
ブームと言われた程、MBAを取得しに海外に留学する人がいたのは、その後の就職が引く手数多で年収も1000万円超えが当たり前だからだ。学校に通う1〜2年の間、収入がなくり、学費と生活費で1000万円前後の費用を負担しても、その後、就職の心配どころか年収アップや外資系で経営の要職に就ける道が拓けるから社会人が入ってくる。
たとえ卒業と同時に国家資格が取れたとしても就職できない資格に魅力を感じる人は少ない。増してや法科大学院では受験資格ができるだけだから、さらに魅力に乏しくなる。
国全体を観れば、経済が成熟し人口が減少していく日本国内だけで活動するだけで高度成長期のような成長を期待できないのは明らかである。これから経済発展していく外国企業との取引を増やす必要が出てくるだろう。外国とは習慣も法律も異なるのだから、法律サービスの需要が増えていく事になる。
法律サービスを充実させる目標が間違っているとは思わない。けれど、企業でも個人でも問題が起こった時に訴訟で解決するという習慣が根付いていない日本で、弁護士だけを増やすのは雇用環境を悪化させるだけで、何の解決にもなっていない。
最高裁までの3回の訴訟に何十年もかかってしまう時間を3年程度に短縮するとか、もっと構造的な課題を解決する必要があるように思える。


